【チェコ編 2】
2.欧州女王にも輝く 〜USKプラハ〜 育成組織編
USKプラハの育成組織については、ここではU−18男子チームを取り上げる。前述のようにこの地域はハードに練習することが多いようだが、まず典型的な週間スケジュールを見てみたい(表)。試合のある週と無い週で若干の違いはあるが、原則としてこのような形になっている。週に4日は1日に2回練習をしているが午前中は個人スキルや身体のケア等が中心で午後はチーム練習という風にはっきり目的を分けている。朝の練習は午前7時30分か8時ちょうどに始まって1時間15分〜1時間40分くらいで終わる。この朝の練習は全員が集まるものではなく、誰が参加するかは疲労等を考慮してコーチが決める。朝の練習はヘッドコーチではなく、別なコーチが指導するが彼は元チェコ代表男子のヘッドコーチであった。午後の練習は6時30分または7時30分前後に始まり2時間程度行うことが多いようだ。
表 USKプラハU−18男子チームの週間スケジュールの例
曜日 |
練習内容 |
月 |
[土日に試合がなかった場合]身体づくり、アジリティ、バスケットボール(トランジッション) [土日に試合があった場合]フィジオセラピーと身体づくり |
火
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[朝]個人スキル |
[午後]チーム練習 |
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水 |
[朝]個人スキル |
[午後]チーム練習 |
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木 |
[朝]フィジオセラピー |
[午後]チーム練習 | |
金 |
[朝]個人スキルとハーフコート3 on 3 |
[午後]チーム練習(5 on 5中心。試合の準備) | |
土または日 |
試合(隔週) |
USKプラハU−18男子チームのある日の練習内容は以下のようである。水曜日の午後の練習で、午後7時42分ごろ始まった。最初はアジリティーの強化が目的の練習であった。ボールを持ったまま歩いてハードルを5つ越えていき、最後にドリブルをしてシュートを打つ。ハードルを越える脚は同じ側を使う。ハードルの越し方は前向き、右向き、左向きなど順次行っていく。さらにその次に、ハードルを越えた後のドリブルをする際に、何種類かのステップを踏んだり、ジャンプをしたりするということを加えていく。
次は低めの台の上に立ち、通常より重いボールをキャッチする。両手、右手、左手とキャッチの仕方を変えていく。続いてその重いボールをキャッチしたあと、ボールを床につけてからボールを相手に戻す、ということを繰り返す。さらに片足立ちをして同じ動作を行う。その次に、重いボールを持って低い台に乗り、踏み台昇降のように昇り降りを素早く行う。この台が5台ばらばらに配置されていて昇降を全ての台で行い、台と台の間はスプリントランをして移動する。
その次のドリルでは、ハードルを3台用意し高さは10cmくらいに下げ4〜5m間隔に配置する。ボールを持ってハードルに向かって走り、ハードルの前後にステップを踏んだあと、左右にディフェンスのスライドステップをし、ハードルをジャンプして超える。そして次のハードルに向かって走り、同じ動きを3台とも続けたあと、持っていたボールをドリブルして1 on 1を行う。ここまでが一連のものとなるドリルである。途中でステップのボリュームを増やしていく。続いて、重いボールを用いたコアトレーニングを行う。ここまでがアジリティー強化を目的とした部分で開始から30分を費やした。このあとストレッチングをはさんで、1 on 1に取り組んだ。ディフェンスが正面ではなく、オフェンスの横に立った状態から始める。シュートが入ったり、ポゼッションが変わったら今度はディフェンスが逆側のゴールに攻め返す。ここまでがひとまとまりである。この1 on 1が終わったら2 on 2に取り組んだ。センターサークル付近でコーチがボールを持ち、選手は4人ともベースライン近くに立つ。オフェンスの二人は左右に分かれ、センターライン方向に向かって走ってコーチからボールをもらいに来るところから始まる。ハーフコートで行う。
2 on 2が終わると3 on 3を行う。今ほどの2 on 2に加えて、センターライン付近でオフェンスとディフェンスが一組待機する。コーチのドリブルを合図にして、ベースラインにいる二人のオフェンスは先ほどと同様の方向にボールをもらいに走り、センターラインにいるオフェンスはペイント方向に動く。コーチからボールをレシーブしたら3 on 3を開始する。この3 on 3ではディフェンスは逆側のゴールに攻め返す。
次も3 on 3だが、最初に立っている位置をコーナー、ウイング、ミドルポストと決める。またコーチがボールを持っているが、今回は必ずコーナーにいるオフェンスが最初にボールをもらいに来る。そしてミドルポストにいたオフェンスがトップオブザキーでセカンドパスをレシーブする。その際に反対のサイドのウイングにいるもう一人のオフェンスがハンズオフをするような形でボールを受け取り、ここからピックアンドロールを行う。ここまでが共通の決まりごとの3 on 3である。
次のメニューは4 on 4である。コーチからパスを受け取ったオフェンスが攻めたあと、ディフェンスが反対のゴールに攻め込み、最初のオフェンスがもう一度攻める、という形式である。1回ずつヘッドコーチがプレイの重要なポイントや、良いプレイ、改善すべきプレイを指摘して、選手がそれを確認しながら取り組んでいた。その中で、214cmの17歳の選手がアウトサイドから攻めるべき場面で、疲れてきたためか楽をしようとしてインサイドに行ってからシュートを打ったときに、ヘッドコーチが厳しく叱責していたシーンが印象に残った。この日の練習はこのメニューで終わりである。
USKプラハのコーチ陣にこのクラブの育成組織のチーム(ここでは特にU−18チーム)の指導方針についてインタビューした。それによると、オフェンス面は指導に二つ柱があり、一つはファーストブレイクで、中でもトランジッションを意識した指導をしているという。もう一つの柱はハーフコート・オフェンスであり、もう少し詳しくいうとピックアンドロール、ギブアンドゴー、ダイブアンドインサイドアウトという3つのプレイができるようにと考えて指導しているという。ディフェンス面では、ボールにプレッシャーをかけることとディナイという二つを重視しているとのことであった。
写真 USKプラハ男子U-18チームの練習の様子
チェコの国内リーグは、男子の方はUSKプラハを含め1部リーグであっても経済的に苦しいクラブが多い状況だった。男子1部リーグの平均的なクラブのバジェットは約9,000万円だという。1クラブだけ比較的予算があるクラブがあったがそこで2億円くらいだという。当時は外国籍選手がアメリカ人が3名、ヨーロッパの選手が3名の計6名まで契約できるレギュレーションだったが、予算の関係から実際に6名の外国人選手枠を全て使っているクラブは少なかった。その外国籍の選手もやはり欧州各国のリーグに所属する選手と比較するとやや水準が落ちる選手になってしまっているようであった。さらに、予算を圧縮するため多くのクラブで大学生と契約しているという実情もあった。女子の方はもっとも恵まれたクラブであるUSKプラハでバジェットは2億円くらいとのことである。
チェコの国内でのバスケットボールの人気は、アイスホッケー、サッカーに次いで3番目とのことである。視察当時は11月から5月までのオンシーズンの間はバスケットボールのテレビ放送が週に5ゲーム楽しめたという。チェコの国内リーグが2試合、ユーロリーグが2試合、ユーロカップが1試合という編成であった。
チェコ男子は古豪復活をもくろみ、女子よろしく世界で活躍することを目指し努力していた。2009年に見たときも、2010年に見たときも、シニアよりも育成年代の建て直しに注力していた印象である。そうして鍛えられた子どもたちが約10年の時を経て2019年の世界選手権での6位という結果に結びついたではないかと理解している。強化の王道・本質はここにあるように思われる。
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文責:出町 一郎(でまち・いちろう)
[バスケットボール研究者・バスケットボールコーチ・大学講師]
●東京大学大学院博士課程出身(スポーツ科学,教育学)
● 元プロバスケットボールチームコーチ
*このページに関するお問合せ euro@demachi.net
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