【ギリシャ編 1】
0.ギリシャってどんな国?
ギリシャはヨーロッパの南側にある国の一つです。面積は約13万平方キロメートルで日本の約3分の1。人口は約1,081万人(2015年の予測値)。首都はアテネ。主要産業は執筆時点では観光業,海運業,鉱工業,農林水産業。通貨はユーロ。気候は地中海性気候。
バスケットボールの面では男子代表は世界トップレベル。国内リーグは男子1部リーグの上位クラブは欧州でもトップクラスの実力を持つ。私見では細かなテクニックよりも、フィジカル、特に接触に強いプレイスタイル。
1.小クラブが起こした奇跡 〜マルーシBC 〜
マルーシBCはギリシャの首都アテネ北部の郊外に位置するマルーシという街にあるクラブである。総合型地域スポーツクラブの中に男女それぞれのバスケットホールチームがある。ギリシャのクラブといえば、オリンピアコスやパナシナイコスといったビッグクラブが有名であるが、マルーシBCは比較的小さなクラブである。マルーシの人口は約7万人で、ホームアリーナの座席は2500人という。ただし、ユーロリーグ出場時は座席数18800のオリンピック・インドア・スポーツ・センター(OAKA)を使用する。
マルーシBCは1896年に設立されたクラブである。ギリシャで3番目に古いクラブだという。戦績は2000年以降で言えば、マルーシBCのトップチームは2011―12年シーズンまではギリシャ一部リーグに所属しており、ユーロリーグ出場歴もあった。また、サポルタカップという、現在のユーロカップにほぼ相当する欧州各国による大会で2000−2001年のシーズンに優勝したこともある。クラブハウスにはこの時の写真が飾られており、コーチ陣やGM、スタッフはこの優勝のことをスモールクラブが起こした奇跡と誇らしげに語っていた。育成組織は、男子はU―16などが活動していた。女子の方は人数の関係かオーバー17のチームを作るなど柔軟に活動しているようであった。
ここではトップチームの練習の様子を記す。これは2月下旬のギリシャ国内1部リーグのホームゲーム前日の練習である。17時40分からコートの外の別室でミーティングが始まった。ビデオも見つつ明日の試合のポイントを確認した。18時8分くらいから選手が少しずつコートに入り始め、練習の準備を行う。18時20分に練習がスタート。小さい選手8人と大きい選手6人に分かれていった。
まず小さい選手のグループの練習内容である。最初は、ゴール下からウイングにポップアウトして、トップオブザキーからのパスをレシーブ。そして、ベースライン側に1ステップしてからミドルサイド方向にドライブし、フリースローライン前後でジャンプショットをする。次に同様にレシーブしミドルサイドにドライブしたあと、ドリブルチェンジをしてジャンプショットを打つ。その次は、同様にウイングでレシーブしたらそのまま3ポイントシュートを打つ。その次のドリルは、ゴール下から動き出すのは同じだが、ミドルポストに置いたコーンを味方のスクリーンと見立てて、コーナーでパスを受け3ポイントシュートを打つ。
写真 ユーロリーグでのマルーシBC vs FCバルセロナ戦の様子
(黄色のユニフォームがマルーシBCです)
続いて、ゴール下からトップオブザキーの方向に動き、ウイングからボールをもらって3ポイントシュートを打つ。これに続いて、3ポイントラインをまたぐようにアシスタントコーチが立ち、同様にレシーブしたあと、パスをもらった方向と反対側にピックアンドロール風にドリブルしてシュートを打つ。
一方、大きい選手のグループは、両ウイングに2列に並び、逆サイドのミドルポストに動き、同じサイドのウイングの選手からパスをもらい、ターンショットをする。パスをした選手は逆サイドのミドルポストにムーブし、そのサイドのウイングの選手からパスをもらってターンショットをする。これを続けていく。ターンショットが終わるとフックシュートを打つ。さらに、レシーブしたあと、リバースターンをして1ドリブルでジャンプショットを打っていく。その次は、両ウイングに並ぶのは同じだが、トップオブザキーでボールをレシーブして、一歩踏み込んだあと、逆側にドリブルしてレイアップシュートをする。これに続いて、並び方は同じで、最初の練習のように逆サイドのミドルポストでレシーブしてシュートフェイクをしてからシュートを打つ。
これの次はウイングと同じサイドのミドルポストに立ち、ピックアンドロールをしたあと、ロールをしたピッカーにパスしてシュートをする。このあとは、コーチがトップオブザキーでボールを持ち、選手はリングの真下と、両ミドルポストに計3人が立つ。別の一人の選手がベースラインの外に立ちボールを持つ。ゴールの真下にいた選手がウイングにポップアウトしボールをレシーブする。同じサイドのミドルポストにいた選手がピックアンドロールをしに行く。そうすると逆側のミドルポストにいた選手がハイポストにムーヴしボールをレシーブし、ロールしたピッカーにパスをしてシュートさせる。いまパスをしたこの選手は、ベースラインの外にいた選手からボールをもらいシュートをする。このドリルはここまでがひとまとまりである。
次はこのドリルの変形で、ハイポストエリアにポストアップしてレシーブするまでは同じで、その後この選手がピックアンドロールが起こったサイドのミドルポストに向かってドリブルをする。それに合わせてロールした選手は反対サイドのミドルポストに行きボールを受けてシュートをする。いまドリブルをしてパスをした選手はベースラインの外からボールをもらいシュート打つ。ここまでがひとまとまりである。
次に行ったのは、シューティングゲームである。角度の無いミドルレンジのスポットに左右に分かれ、一定数決まるまでの時間を競う。そしてその次は、コーナーからの3ポイントショットと、ミドルポストでボールをレシーブしてからフックシュートを行った。最後はフリースローを打つ。ここまでが2グループに分かれての練習内容で練習開始から25分経っていた。休憩のあと、ダイナミックストレッチを中心にしたウォームアップを行った。そして、ナンバープレイに関してウォークスルーを行った。そしてその後ハーフコートでの5
on 5に移行した。ナンパ―プレイの一例が下記の図である。
図 マルーシBCトップチームのナンバープレイの例
その後、ウォークスルーをワンプレイ分だけまた行ない、フリースロー、ストレッチングをしてこの日の練習は終了した。コートでの練習時間は1時間17分だった。このシーズンのマルーシBCのトップチームのコーチ陣は、へッドコーチがのちにオリンピアコスでユーロリーグを制覇するゲオルギオス・バルツォカスで、アシスタントコーチはギリシャ代表男子のアシスタントコーチも務めたニコス・リナルドスであった。
ユーロリーグとギリシャ国内リーグでスポンサー(またはサプライヤー)のボールメーカーが違うことがある。視察した年はユーロリーグがナイキ社で、ギリシャ国内リーグはモルテン社であった。従ってこの2つのリーグで使用する試合球が違うことになる。従って週の半分はナイキのボールで練習して、残りの半分はモルテンのボールで練習していた。次の試合に合わせて、チームスタッフがそれぞれのボールケースを準備していた。
ギリシャでは、公式戦が時折試合が夜遅くにあることがある。筆者が観戦した試合の中では最も遅くて22時開始というものがあった。これは、ギリシャで最も人気のあるスポーツはサッカーだからである。地元のサッカークラブの試合とバスケットボールクラブの試合が同日にある際はバスケットボールの方が試合時間をずらしている。マルーシBCはもちろんのこと、パナシナイコス等の人気のあるビッグクラブでさえ、サッカーの試合と重複する時間に試合を実施すると観客が大幅に減る。従って、サッカーの試合と同日になってしまった際は開始時間を変更するのである。
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文責:出町 一郎(でまち・いちろう)
[バスケットボール研究者・バスケットボールコーチ・大学講師]
●東京大学大学院博士課程出身(スポーツ科学,教育学)
● 元プロバスケットボールチームコーチ
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